金昌寺

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 門を曲がると、大きなわらじが見えた。 八重子は幼い頃の記憶の中から、仁王様を思い出して足取りが重くなっていた。 もう、孝一の背中にしがみ付ける程子供でもない。 それでもわざと下を向き、孝一が助けてくれのを待った。 山門の前でたたずむ八重子。 上目使いで垣間見ると、仁王様はまだそこにいた。 思わず後退りする八重子を見て、孝一は笑った。 恐がりの八重子を自分の前に押し出し、孝一はそっと目隠しをして参道へと誘った。 八重子は、指の隙間からほんの少し見える仁王様を睨みながら孝一に従った。 (緒になれて良かった) 八重子の心に孝一の優しさが染みていた。 境内では桜が満開だった。 特に本堂近くにある古木が見事だった。 孝一はまず、先祖の墓に八重子を連れていった。 出兵と結婚の報告をすることで、八重子と家族を守ってもらおうとしたのだった。  それは紛れもない一つの愛の形でもあった。 孝一明日、日本が勝利することを信じて戦地に赴く。 愛する妻を、愛する祖国を異国の敵から守り抜くために。  次に孝一は本堂を上がり、右端にある観音様の前に八重子を連れていった。 「この観音様は子育て観音と言って、子供を守ってくれると聞いている。もしかしたらおまえの身体の中に、俺の子供が宿っているかも知れない。いや宿っていてほしい。今度の戦争で死ぬことがあっても、俺の命、魂はおまえによって受け継がれる」 孝一は八重子の手を握り締めていた。本当は強く抱き締めたかった。 でも人目があった。 戦時下では男女でいるだけで、非国民扱いされた。 それが例え夫婦であっても…… 穏やかそうな笑顔で、じっと子供を見つめる観音様。 八重子も愛しそうに、観音様の胸に抱かれた子供を見ていた。 「実は、隠れキリシタンの聖母じゃないかという人もいてね」 孝一は耳打ちをした。 英語が禁止されていたからだった。 「分かる、マリア様でしょう」 八重子も気を使って小声で言った。 「きっとそうだわ」 八重子は胸を出したマリア様に手を合わせて、孝一の無事をひたすら祈っていた。
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