出兵する前に

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 三沢から孝一の住む四番下まで一里ちょっとある。 若い二人は少しでも永い間一緒にいたくて、街灯もない慣れない夜道を走ったのだった。 孝一の家族は三沢で泊まることにしていた。 それは二組の家族の計らいでもあった。 初めての夜を二人だけで過ごさせる為だった。 二人が走ったのには訳があった。 赤紙が来た以上孝一は戦場へ赴かなくてはならないからだ。 だから手に手を取ったのだ。 出来ることなら、戦場なんかに行きたくはない。 でも逃げ出す訳にはいかなかった。 厳しい処分が家族にかかると解っていたからだ。 子供の頃から兄と妹のように育った二人でも、戦時中は憚られたからだった。 二人が供に居られる時間は僅かだった。 だから互いの心の内を語り合いたかったのだ。  終戦の年に届けられた召集令状は二百万にものぼる。 本土空襲が激しくなってからもあくまでも徹底抗戦を訴えた大本営は本土決戦のために二百万の兵士を動員したのだ。  孝一は甲種合格だったので、戦場へ行く覚悟は出来ていた。 だけど、残される家族や八重子が哀れだった。 甲種合格は名誉なこととされた。 だから孝一は喜んだ。 でも一番誇らしげだったのは、父の久だったのだ。 昭和九年発行の歳時記では夏の季語にあたる。 いがぐり頭で国民服を着た二十歳の若者が一同に集められる。 徴兵検査を受けた日から若者は軍の一員としての役割を与えられることになる。 彼等にとっては人生の節目となる大切な一日となったのだ。 何時戦場駆り出されても仕方ないと解っていた。 だからこそ、二人で一緒にいたかったのだ。 ホンの僅かな愛の時間を過ごしたかったのだ。
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