出兵する前に

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 陽が大分高くなった頃、母の節が戻って来た。足の悪い父の久より早く帰宅したのは、八重子を家族に迎える準備のためだった。 親族の見守る中、孝一と八重子は仏壇に手を合わせ、結婚を報告した。 「今日からあなたは家族よ。嬉しい、これでやっとあなたのお母さんと本当の姉妹になれる」 節は八重子と孝一の手を取り、自分の手の中で二人の手を重ね合わた。 八重子は思わず赤面した。 孝一の優しくて激しい愛撫が脳裏を掠めたからだった。 節は目を細めて、そんな可愛い嫁を見つめていた。 八重子の祖父と祖母は、親兄弟全てを土砂崩れで失った天涯孤独な者同士だった。 出先で災難を聞き現場に駆けつけた祖母は、半狂乱になりながら素手で土砂を掻き分けた。 その時、僅かな物音に気づき、村の人と協力して埋まっていた祖父を助けたのだった。  隣の者同士、悲しみに耐えながら、いたわり合いながら生活するようになった。 そして八重子の母ナツが生まれた。 失った家族の生まれ変わりだと二人は信じ、おしみのない愛を与え続けた。 でも幸せは永く続かなかった。 土砂崩れの時に受けた後遺症のために、可愛い盛りの娘を残し、祖父は他界してしまったのだった。  祖母は災害で亡くなった家族と夫のために、親子で秩父巡礼に出発したのだった。 お遍路の旅は、看病と仕事に疲れた母にとって、過酷なものでしかなかった。 出発点になるはずの札所一番にたどり着く前に、三沢で倒れてしまったのだった。 ナツは近くの農家に助けを求めた。 でもあいにく家族は一人もいなかった。 ナツが母親の元へ戻った時、野良仕事を終えたらしい少年が母親の傍らに立っていた。 それは後のナツの夫との運命的な出会いだった。  農家で暫く過ごした後、母親は無理を承知で再び巡礼へと旅立って行った。 そして四番下までたどり着いた時、浅見家のまえでまた倒れてしまったのだった。
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