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信心深い家族は、すぐに二人を家の中に運び込んだ。
干してあった布団をすぐさま取り込み、ナツの母に安らぎの場所を提供したのだ。
一時は回復したように見えたナツの母であったが、手厚い看護も可愛い愛娘の必死の祈りも届かず亡くなってしまったのだった。
母親の死後、ナツは浅見家に引き取られ、節と姉妹のように育てられのだった。
一人娘の節は、兄弟が欲しくてしかたなかった。
自分家の前で倒れた母親に取りすがって泣いているナツを見た時、この子を守ってあげたいと思った。
本当の姉妹になりたいと節はいつも思っていたのだった。
「孝一があなたと一緒になりたいと言った時、夢が叶ったと思ったくらいよ」
目を細めながら節が言う。
「ありがとう八重子さん、本当に……」
節の目には涙が溢れていた。
「これでいい。これで孝一も心置きなくお国のために戦える。頼むぞ孝一、戦争に行きたくても行けない父さんのためにも」
久は若い時に足を痛め、兵役を免れていた。
久はそのことをひどく気にしていた。
健全な若者が次々と出兵するのを地団駄を踏みながら見送ってきた 。
出来ることなら自分も行きたいと願った。
世間の目の中には厳しいものもあった。
非国民とさえ呼ぶ者もいた。
そんな中傷の中、久は耐えに耐えてきたのだった。
だから甲種合格の息子は誇りだった。
この度の出兵は、至上の喜びでもあったのだ。
戦局は我国に於て、次第に不利になっていく。
でもそれを知らされていない国民の大半は、御国のための辛い別れを、名誉なこととして受け入れるしかなかったのだった。
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