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孝一がもう一度節を突く。
「分かった、分かった」
節は笑いながら、孝一の頭を撫でた。
「甘茶が終わっちゃうね」
ナツが孝一に耳打ちをする。孝一は照れくさそうに笑っていた。
孝一の催促のおかげで、二組の家族はようやく金昌寺向かうことができたのだった。
子供の頃大好きだった甘茶を、八重子にも飲ませてあげたいと思ったナツだった。本当はすぐにでも飛んで行きたかったのだ。
山門の大きなわらじに向かって八重子が駆けていく。孝一がその後を追う。
小さな八重子が心配でしょうがなかった。
「ギャー!」
八重子が火の着いたように泣き叫ぶ。
大きなわらじの陰から、仁王様が八重子を睨みつけていた。
「恐いよー」
八重子は孝一にしがみ付いていた。
「大丈夫だよ。恐くなんかないよ。ホラ、お兄ちゃんがおぶって行ってやる」
そう言って孝一は背中を向けた。八重子はためらいもなく、それに従った。
「目をつむって」
孝一は自分自身にも言い聞かせた。
実は孝一も仁王様がにがてだったのだ。
それを八重子に悟られないように必死だったのだ。
孝一は可愛いらしい八重子を一目見た時から大好きになっていたのだ。
だから弱いところを見せられなかったのだ。
八重子も優しい孝一が大好きになった。
母親同士が運命的な出会いをした様に、子供達もまた同じような体験をしていたのだった。
孝一と八重子は、節とナツに見守られながら淡い恋を育てていったのだった。
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