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本当は少しどころかすごくすごく寂しい。
でも一度口にしたらきっと止まらなくなるから。仕事だから仕方ないって分かってても“行かないで”って泣き付いてしまうから。
そうなって敬を困らせたくないから、いつもその言葉は喉の奥へと仕舞い込んでるの。
「俺にやめてほしいこととか…逆にしてほしいことも、あるならなんでも言って」
どこまでも優しい敬の言葉は私の心をいつまでも抱き締めて離さない。
息苦しくも甘美なその感覚は一度味わってしまえば瞬く間に虜になる。
そしてそんな敬の言葉がいつも、
私を少しだけ……素直にさせる。
伸ばした手で敬の頭を掻き抱くように胸元に引き寄せ、
「時間たっぷりあるなら…いっぱい、甘やかして」
紡ぐは衣擦れの音に掻き消されてしまいそうな程に小さな声。
「あとね…」
ぽろりと零れ落ちた雫がこめかみから耳を伝い、シーツの染みと成る。
「…一度でいいから、夢で会いにきて」
寂しいという想いを、その一言に詰め込んだ。
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