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「しーちゃん、怒った?」
思わず口から零れ落ちそうになった溜め息をグっと堪えていると、背後からそう問う声が降りかかった。
敬のその声は言わずもがな楽しそうな色に満ちている。
「怒ってるに決まってるでしょ」
「えー、こわ」
「思ってもない事言わないでよ」
「えー?」
クスクスと笑う音を紡ぐ敬の唇が、耳朶を掠める。
…絶対わざとだ。
「…っちょっとそれ、やめてよ」
「ん?それってどれ?」
「だから、それっ」
「…あぁ、これ?」
身を捩る私の身体を離さないと言わんばかりに腕で締め付けては、いきなりカプっと耳に噛みついてきた。
「ひゃっ…」
突然の刺激に思わず上擦った声が飛び出してしまった。慌てて口を手で押さえるも時既に遅し。
私の後ろで敬は空気を煌めかすように楽しそうに笑ってる。
私が耳が弱い事を知っている敬はいつも不意打ちでこういう事をする。そして私の反応を見ては今みたいに楽しそうに笑うんだ。
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