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目尻がクシャっとなって左側にだけえくぼができるのが印象的な敬の笑顔は、無垢な子供のように愛らしい。
それに加え、私を揶揄って楽しんでいる時こそ可愛い笑顔を見せてくるんだから、相当タチが悪いと思う。
「なに今のかわいー声」
またもや笑いを孕んだ声が鼓膜を揺らす。
それに反応して首だけを捻って後ろに振り向けば、恨めしい眼差しを送る私とは対照的に、敬はその猫目をフっと細める。
まるで愛おしいものを見るようなその瞳に見つめられると、未だにどうしたらいいのか分からなくなる。…胸が、擽ったい。
「揶揄わないでよ」
照れを隠すようにすぐに前へと向き直りそう言えば「揶揄ってねえよ」と、さっきよりも少し低く、掠れた声が返ってくる。
敬は突然そういう声を出す。色香に纏われたような、耳の奥にざらつくような、とても魅惑的な声。
それを無意識のうちにしているのか、それとも意識している上で使い分けているのか。
どちらなのかは分からないし見当もつかないけれど、どっちにしろ私が振り回されている事には変わらない。
私は敬の声にすらこんなにも敏感に反応してしまう。
…いつも私の余裕ばかりが、無くなっていく。
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