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守銭奴ー木こりの小屋ー
雨の中、汚れた外套を身にまとった大柄な男が林の中をしっかりとした足取りで進んでいる。日はとうに暮れ、辺りは雨音と身に染みる寒さに包まれていた。男は迷うことなく暗闇の林を縫っていく。顎に蓄えられた立派な黒ひげからは白い息が一定の間隔で吐きだされている。
しばらくすると、男の足が止まった。前方に消え入りそうなかすかな光が見て取れる。男は光を見定めて再び歩を進めた。30分もしないうちにわずかに開けた場所に出た。みすぼらしい小屋と薪が転がっている。光はこのみすぼらしい小屋から漏れていた。男は迷うことなく小屋の扉へ向かった。
コンコン。男は今にも崩れそうな小屋の扉を軽く叩いた。ノック音に呼ばれて小屋の中から光がふらふらと扉の方へ向かってくる。わずかな扉の隙間から突然ぎょろりと目玉が飛び出した。血走った目玉は男を二度もなめ回すように眺めて消えた。すると扉がゆっくりと悲鳴を上げながらわずかばかり開いた。扉からぬるっと顔を出した家主はランタンで男の顔を照らし訊ねた。
「旦那、……夜分遅く何の用だ」
「一晩泊めてほしい」
「……ほう、そらあ大変だ……大変だ……雨がひどいからなあ……ふっん」
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