二つのフレーバー

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「そんな話しないでよー。食べたくなっちゃうじゃん」  叶にいわれて、しまった。と思った。確かにそうだ。食べることの出来ない大好きなチョコミントアイスの話を聞かされるなんて、そんなの地獄だろう。  いや、さすがに地獄はいいすぎただろうか。 「あー、食べたい! チョコミントアイスを食べれないなんて、本当に地獄!」  いいすぎなんてことはないようだ。叶には本当に申し訳ないことをしてしまったな。  突然、叶が僕のお腹を拳で軽く押した。 「ねえねえ。チョコミントアイスの話なんてしなかったら良かったなー。悪いことしたなー。とか思ってるでしょ」  図星だった。僕はいつも叶に心の中を見透かされてしまう。叶曰く、顔に全部書いてあるらしい。 「もう、気にしすぎだからね? っていうか、なんで泣きそうな顔してんのよ。本当はルイって名前、ベースの塁じゃなくてナミダの涙なんじゃないの? 泣きたいのは私の方だから。チョコミントアイスを食べられない地獄に連れてこられた、私の方だから。分かった?」  他人から見たら、叶の物言いはキツいように見えるかもしれない。でも僕みたいに引っ込み思案な男を引っ張ってくれる、気立てのいい姉さん女房なんだ。  いつも叶には助けられてきた。だから、せめてこんな時くらいは叶の役に立てるような男になれるように頑張らないといけない。僕になにが出来るだろう。叶に喜んで欲しいし、叶に笑っていて欲しい。 そうだ! いや、でも…… 「ねえ、塁? そんなに悲しい顔しないでよ。まるで死んじゃうみたいじゃない、私が。ただの骨折なんだから大丈夫だって」  また僕の不安が顔に出てしまっていたみたいだ。しかも大袈裟に。でも顔に出たのが不安だけで良かったと思う。僕の覚悟までは、表情には出なかったみたいだ。  僕の覚悟。覚悟なんて言い方をするほど大層なものではないかもしれない。だけど、叶に一度もしたことのなかったサプライズプレゼントをあげる。そんなプランを実行しようと考えた心の内を、僕の表情はしっかりと隠し通してくれたみたいだ。  駅前の催事コーナーで販売している、二種類のチョコミントアイスを叶に届ける。 「あー、チョコミントアイスが食べたーい!」  小さなサプライズに向けて、僕は動き出した。
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