二つのフレーバー

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 引っ込み思案というよりは臆病といった方が的を射ているかもしれない。見ず知らずの他人に変に思われるのが怖いなんて。でもそんなことばかり気にして、叶へのサプライズをなかったことにしてしまうのは間違っている。  もう二度と会うことがないかもしれない他人と、これからの日々を共に過ごしていく叶。  どちらを優先するべきか。考えるまでもない。答えは分かりきっている。僕は一歩踏み出して、行列に並んだ。さっき、「おじさんも並んでるんですか?」と聞いてきた女性が僕をちらりと見たが、それをなるべく気にしないように努めた。  行列に並び始めた瞬間こそ恥ずかしさがあったが、誰も僕のことなんて気にしてはいないのだと分かると、恥ずかしさはなくなって余裕をもって行列に並び続けることが出来た。  行列といってもテイクアウトのアイスクリーム屋だ。回転は速い。  前に並ぶ女性たちは、どんどんと行列から抜けていく。僕の順番はもうすぐそこにまで迫っている。ちょうど昼時で、駅のコンコース内とはいえ気温は高い。額に浮かんでいた汗の粒が流れ落ちて鼻を伝う。  その時に、はっとした。  どうして今まで忘れていたのだろう。  僕は一つの問題に気付いてしまった。  こんなに気温が高いと、アイスが溶けてしまう。  テイクアウトがメインの店舗とはいえ、ここはアイスクリーム屋だ。その場で食べる人がほとんどだろう。家にまで持って帰る箱や保冷剤を用意しているようには見えない。     
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