二つのフレーバー

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 僕はアイスの入ったカップ片手に、座席へと腰をおろした。  電車内はクーラーがきいていて比較的涼しかった。これならアイスもあまり溶けずに病院までいけるかもしれない。  叶の喜ぶ顔が頭に浮かんだ。まさか病院の中でチョコミントのアイスを食べれるとは思っていないだろう。それに僕の初めてのサプライズに叶は驚いてくれるはずだ。  僕はいくつもの妄想を、妄想で上塗りしていった。多分、僕はニヤニヤしていたと思う。  しかし、そんなニヤニヤはすぐに吹き飛んでいってしまう。  電車が止まって扉が開くと、外の茹だるような空気が電車の中を支配したからだ。  再び扉が閉まってクーラーがきいても、扉が開くと暑さが容赦なく僕たちを襲う。その度にアイスは勢いよく溶けていった。綺麗な青緑色は液体になっていき、茶色と混ざってどんどんと不気味さを漂わせ始める。  あんなに美味しそうだったアイスは、美味しそうという言葉からは程遠い存在になっていく。  べたべたになって、二つのチョコミントのフレーバーが一つになっていく。  少しでいい。少しでいいから、病院に着くまで溶けずに残っていてくれ。  だけど、僕のそんな思いは夏の暑さに踏みにじられていく。  僕の小さな小さな希望は、アイスと同じでどんどん溶けて形を失っていく。
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