二つのフレーバー

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 この前に話してた、駅前のお店でチョコミントのアイスを買ったんだけど。この暑さで病院まではもたなかったよ。ごめんよ。せっかくの二つのフレーバーもチョコも溶けて全部ぐちゃぐちゃに混ざっちゃって。叶に食べさせてあげたかったのに、サプライズも失敗だし、本当にごめんよ。なにも出来ない夫で、ごめんよ。  そんないくつもの台詞を頭に浮かべて、僕は病室の扉の前に立っている。  叶にこんなことをいっても、気にしないでいいと僕が慰められるのは目に見えている。だからといって謝らないでいれる自信は僕にはない。いつまでもここに立っていても仕方ないのに。僕はうじうじとしてここから動けないでいる。  突然、扉が開いた。  前には車椅子に乗った叶がいた。 「あれ、塁だ。どうしたの、そんなところでボーっとして」叶の目が、僕の持つどろどろのチョコミントのアイスが入ったカップを見付けた。 「あっ、アイス! もしかして、駅前の? 買ってきてくれたの?」  目を輝かせている叶を見て、心がきゅっと締め付けられた。  チョコミントのアイスが溶けてしまっていると知ったら、叶はきっと落胆するだろう。  僕は悔しくて悲しくて……。 「塁。それ頂戴」     
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