《1》

9/9
前へ
/9ページ
次へ
 階段を下りてきた女の人とぶつかりそうになり、すみません、と振り返りながら謝る。  普通黄色がレモンじゃないのか?透明がレモンって。じゃあ黄色はパイナップルか?と心の中で悪態をつく。  既に息が切れていた。  部活を引退してからすっかり走り込みを止めてしまった体が、ウォームアップ無しの急激な運動に悲鳴を上げる。それでも広志は決して足を止めることはない。  今さら、と千果には言われてしまうだろうが、やっと今ならちゃんと言える気がした。  千果はもう電車に乗ってしまっただろうか。  早く千果に追いつかなければならない。  この口の中の飴が溶けきって、証拠が消えてしまう前に。 《了》
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加