《1》

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 学校から遠いといっても歩いて20分だ。いつの間にか住宅街を抜け、広志と千香は大きな通りに出ていた。  タイムリミットは刻々と迫っている。  焦れば焦る程、きっかけが掴めない。 「あげる」  内心頭を抱える広志を余所に、隣でやけに時間をかけてゴソゴソと袋の中を漁っていた千果が、その中から1つを取り出して広志に投げて寄越す。 「あ?あぁ・・・・・・さんきゅ」  反射的に握りしめた手を開く。掌に乗る飴の色は、無色透明だった。  薄荷かよ、と広志は思う。  千果は薄荷とかミントとかの、スースーするのものが苦手だった。  残飯処理班の扱いか、と心の中で思うが、広志がそれを口に出したら睨まれるだけなのがわかっていたので絶対に言わない。  とりあえず飴をポケットに突っ込む。 「食べないの?」 「後で」  明瞭な発音が要求される状況で、今話しにくくなる訳にはいかない。    もう前置きは辞めることにした。  ずっと好きだった、ずっと好きだった、ずっと好きだった。  頭の中で3回、呪文のように唱える。  大丈夫だ、とりあえず言った後のことは言ってから考えよう。    そう意を決して千果の方へ顔を向けると、いつの間にか千果は顔を俯かせ、黙り込んでいた。髪の隙間から見える唇が少し尖っている。千果が不機嫌な時の癖だった。 「・・・・・・千果?」  さっきまではくだらないことを散々話していたのに、今度は突然黙る。広志が脳内シュミレーションをしている間に千果に何か話しかけられていて、無視してしまっただろうかと思ったが、流石にそこまで集中してはいなかったと自分の考えを打ち消す。訳がわからなかった。  自分の勇気がないことが悪いのはわかっている。それでもこのまさか状況に広志はつい、人の気も知らずに、と千果に八つ当たりしたい気持ちになった。  結局、それから駅に着くまで千果がこちらを向いてくれることはなく、もちろん広志が思いを告げられることもなかった。
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