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改札を抜けたところで、あっさりと千果が言う。
「じゃあね」
同じ私鉄を使っているといっても、広志と千果の乗る電車は反対方面だった。
「・・・・・・おう」
広志は、そのまま颯爽と歩き去る千果の背中を見つめることしか出来なかった。
階段に向かう人の流れに、直ぐに呑み込まれていく。
しかしそこで、千果の足が止まった。突然立ち止まった千果のことを、後ろを歩いていたサラリーマンが迷惑そうに避けて通りすぎた。
くるり、と広志の方に振り向いた。
まるで広志がそこで立ち止まったままであることがわかっていたかのように、千果の視線はすぐに広志を捉える。
予想外のことに広志は、ただその場で千香を見つめ続けることしか出来なかった。
ゆっくりと、千果の小さな口が開く。広志のところからでも、息を吸ったのがわかった。
「ばーか」
大きな声で叫ぶと、またすぐに背を向け、そのまま階段を駆け下りて行ってしまった。
呆然とする広志のことを、通行人はちらりと見ては通りすぎて行った。
完全に千果の姿が見えなくなって少ししてから、やっと広志もよろよろと階段を下ってホームへと向かった。
この時間、下り電車の乗客はまばらだ。
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