身内に彼がいなくとも

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「教養のない人間ほどよく喋るんだよな」  騒がしかった居酒屋は、急にしんと静まり返った。若槻ちゃん相手にめちゃくちゃにしゃべり倒していた私ももちろん口をつぐみ、硬直した。自分に言われたのかと思ったのだ。座敷席を三つ分つなげて作られたこのプチ同窓会の会場で、発言者の木内くんに皆の視線は集まっていた。彼の向かいに座っている横野宮くんはぽかんと口を開けていて、その隣に座っている三木くんは赤い顔でうつむいていた。  どうやら、私への発言ではないらしい。教養がないのもよく喋るのも当たってるのではらはらした。私の隣で若槻ちゃんが、この緊迫した空気の中で焼き鳥に手を伸ばし、食む。やべえなこの人…… 「おまえは、教養が、ないよ」  木内くんは区切るように言った。横野宮くんはへらへらと笑う。おそらくそうすることでしか自分を守れなくて。 「教養がないのはみとめるけど、急になんなんだよ。俺はただ、俺はただ。三木はホモだけどいい奴だって言っただけじゃねえか!」  自らのセクシャリティを突如暴露された三木くんは、さらにさらに顔を赤くして縮こまる。私は今日の同窓会に参加したことを後悔し始めている。若槻ちゃんは私のジョッキからビールを飲む、飲みやがる、やべえこいつ。
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