身内に彼がいなくとも

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「おまえは、ヘテロだけどカスだな」  木内くんは言い切った。横野宮くんは再び唖然として口を開ける。 「おまえが言ってるのはそういうことだよ。ホモだけどいい奴? いい奴かどうかにホモかヘテロかなんて関係ねえだろ。そういうとこだよ、教養がないって言うのは」  座敷席は水を打ったように静まり返る。カウンター席やテーブル席の方から聞こえる楽しそうな話し声や笑い声が、遠い世界のことのように思えた。横野宮くんの顔からはへらへらが消え去っている。 「……ごめん」 小さな声だった。それでも、横野宮くんは謝った。 「俺にかよ」 「あ、いや、三木、ごめん……」 「……ううん、いいよ」  謝られたら許さなきゃいけないのが社会の常識みたいになってるよね、と同窓会の終了後、若槻ちゃんは私にだけ囁いた。 「あー、空気悪くしてごめん」  木内くんは眉をしかめて皆に向かって言った。それが合図で、みんなまた各々話し込む。私もほっとした。
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