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「我々は、謀ってなどおりません。隊の誰にとっても、新見殿が脱退されたことは重大な損失であり痛恨の極みです。ましてや、昵懇であらせられた芹沢局長の御心中、如何ばかりか測り知れません」
近藤の目をじっと睨んでいた芹沢は。
ふっと息をついた。
右腕であった新見を失い、今夜で芹沢派閥の勢力は大きく傾いた。その上、ここで闘争を起こせば、もし本当に守護職からの下知であった場合には取り返しのつかないことになる。
納め時だと悟ったのだろう。
「御前達、静まれよ」
己の周囲で柄に手を添え構えていた、残る腹心達へと。そして芹沢は声をかけた。
忌々しげに、彼らは座り直して大刀を置き。
永倉達も態勢を解いて、土方は空いていた席へと向かい座った。
「・・・」
先ほどの土方の挑発にも近い台詞は、わざとなのではないか。
永倉は、座り直しながら。
涼しい顔で食事を始める土方と、もはや無言で酒を手酌しだす芹沢とを交互に見やった。
新見を失った芹沢の怒りを行き場の無いままにせず、一度爆発させ、
それを近藤に鎮めさせたのだと。
(歳さんのことだ)
あの場での、近藤の重厚な態度は当然、ここに居た隊士達の目に際立って見えたことだろう。
その効果を土方が十分に狙っていたとしたら。
(見事だ)
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