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なんのために、その剣をとるのか。最早、わからず。
山南は只々静かに、その生気のない顔で、囁いた。
「人の世は、・・如何して、こうも残酷なのだろうね・・」
土方は、震えた拳を握り締めていた。
「ああ。・・如何してなんだろうな」
あのとき、もしも何か慰めの言葉をかけていたなら。
山南の心は変わっていただろうか。
今となっては分からない。だが、
おそらくすでに山南の心は決まっていて。抗うすべなど無かったのかもしれず。
あれから数日後。
山南は、組を脱した。
山南の姿が見えないと、
丸一日、食事の席に来なかったことに、いったい何人が気が付いたことか。
元々外回りの隊を持たぬ内勤の山南の不在には、気が付いたところで平の隊士なら、部屋での仕事か何かで居ないだけだろう、で済ませてしまっただろう。
近頃その志を語り合い、山南と懇意になりつつあった伊東は、そうはいかなかった。
その夜、副長部屋へ訪ねてきた彼を迎え入れた土方達は、そこで明かした。
昨夜から帰っていないと。
「・・・どういうことです」
伊東の、震えた声が裏返った。
「おそらく、山南さんは・・組抜けした」
土方は低く声を抑え、返す。
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