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「皆の前では、特別扱いするわけにはいかない。明日は、組をあげて “京” を探索させる」
「異論はない」
土方の案に、近藤のさらに辛そうな返事が返り。
「そして “夜半から朝方までのほんの数刻でも万が一、すでに遠くまで行っていることを想定した追手として” 総司、おまえが行け」
人気の無い縁側の闇に、顔半分をとかし佇んでいた沖田が。土方を見やり、静かに頷いた。
明朝、組の中核幹部である山南の脱走の報は、大きな動揺を呼んだ。騒然とする隊士達を鼓舞し、組をあげて探索に乗り出す旨の下達を、土方自らが行い。
ものものしく編隊を組む隊士達の横を、沖田の飛び乗った早馬が駆け出て行った。
しかし土方たちの願い叶わず、
自ら、戻る意志をもって戻ってきた山南は。
その夜、夕餉の席で隊士達の前に立ち、頭を下げた。
「御迷惑おかけして申し訳なかった」
沈黙する広間を、山南の穏やかな声が響く。
池田屋事変も禁門の戦も経験していない、未だ烏合の衆でもある新入隊士達に、
「やはり隊規に背いたままでは申し訳がたたぬと思い、戻って参った」
まるで言い聞かせるように。
組の規律は、
たとえ中核幹部の己であろうとも背けぬ、絶対の法であると。
(・・山南さん)
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