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その命をもってして、組の統制をここに強固に纏めんとせんばかりの静かな気迫さえ、土方は感じていた。
その姿は、いまや悲しくなるほど穏やかに、いっそ清らかで。
苦痛に歪む顔を隠しきれず近藤が、黙って下を向いた。
土方は、手に握る湯呑を睨みつけた。
山南と親しき者達は皆、声も無く、
「申し訳ない」
もう一度、頭を下げた山南に、己への無力感に。震える唇を噛み締めた。
法は。人が人を律するために作り出した箍。
それがために、
天狗党は刑を受け。
山南は、切腹を受け入れる。
その選択は山南の、ひとつの答えだったのだろう。
明朝に山南の切腹の沙汰が決まっても。
局長部屋に詰めかけた幹部達によって、尚、必死の説得が密かに始まった。
「山南さんの組抜けは、いうなれば気鬱によるもの、決して、組に反してのものではない。そうでしょう・・?」
近藤が真っ先に口火を切った。
「隊規の範疇の外として、隊士達を説得することもできるはずだ。それは特例でも、武士の情けでもない。きっと皆は納得する・・!」
「近藤さん、私は」
山南は困ったように微笑んだ。
「私は幕府に心底、失望した身だよ。つまり私の心は、もはや天子様にも背くもの、」
息を呑む近藤を、山南の目がそっと見返した。
「ゆえに、組にも背くものです」
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