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冬乃が秘かに、いや、おそらく気づかれているかもしれない恋情を、
寄せる相手、沖田は。
いま冬乃の見つめる先で、浪士達に繋いでいた下げ緒を離し、どこか冷えびえとした表情で彼らを見下ろした。
「たいしたものだね」
そして前触れもなく。
「・・そうまでその命を懸け、俺ひとり葬ったところでどうなる」
沖田は哂った。
(・・え?)
冬乃は流れがよめず目を見張っていた。
(どういうこと?何で未だ、・・)
闘いが続いているかのような台詞を。
「・・・貴様は禍々しき新選組の、巨擘」
沖田の声音の変化に気づいていないのか、浪士達がただ小さく吐き捨てた。
「血祭にあげるに十分、値する」
「だから、」
沖田が。もう一度、哂った。
「そこにおまえ達が命を懸ける意味があるのか」
(あ、)
沖田の声が落とされるのと、
座り込んでいた浪士達が動いたのは、同時だった。
(隠し武器・・!)
冬乃が。駕籠の後ろから咄嗟に飛び出て、
浪士が放った懐剣のように小さな矢が、そんな冬乃の前を一瞬早く飛んでゆき、
同じく何かが目の前を通過した、
続いて浪士達が、言葉にならぬ叫び声を上げ。
冬乃は、立ち尽くしたまま何が起こったのか分からず、咄嗟に沖田を見て彼が無事なことを確認し、目の前で座り込んだままの浪士達を見た。
今、沖田へ隠し武器を放った浪士の、手には深々と小柄が刺さっており。
「冬乃ッ」
刹那に、鋭く沖田の声が冬乃の耳に届いた、
次には冬乃の腕は沖田に引き寄せられ、沖田の背後へと押しやられて、
先程に自分達で後ろ手に縄を切って自由になった腕で、浪士達が立ち上がるなり、各々その手に隠し武器を構えるのを。
沖田の背後で壁まで後退り冬乃は、息を呑んで見つめた。
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