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斎藤一の尾行
斎藤は常の無口に無表情で、すっと背を伸ばして正座していた。
開け放った障子からの時折の春風は、ややもすれば人々を眠りにいざなうというに、
いま此処、副長部屋においては、三人の誰の顔にもその気配など無く。
どころか。
「冗談でしょう」
笑い出しそうな顔で、いや事実、ほとんど笑っているも同然の沖田と。
「オイ、こちとら、わざわざおまえら呼び出して冗談いう暇人じゃねえよ」
眉間に激しい皺を寄せながらも、沖田のあいかわらず人をくった態度に一々まともに返している、
なんだかんだで良い兄貴分の土方と。
「・・・・」
無表情のままの斎藤。
「尾行は監察の得意分野でしょうが。何故、俺達なんです」
笑みを残した口元で、沖田が茶を飲み干した。
「俺はこの通り、火の見やぐらだし、斎藤は・・」
ちらりと沖田は、静やかに座っている斎藤に目をやった。
深閑な空気を纏う白皙の横顔が、黙して土方を向いている。
本人は目立つのが嫌いなようだが、その崇高なまでの佇まいは、どうしても人目をひく。
それを本人がどの程度、自覚しているのかは定かではないが。
「・・無理がありますよ。俺達じゃ、どう気配を消そうが、」
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