斎藤一の尾行

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 男はついに恐怖に駆られ出したようだった。  つけまわされている、ともはや認識せざるをえなかったのだ。  足取りが一層不安そうに、今にも駆けだしそうにもつれている。      怖がらせる、という、ひとまずの目的は果たしたということだ。  いいかげん監察から解散連絡が来ないものかと、沖田はげんなりしながら今一度欠伸した。    監察なら数人、沖田達の更に後ろをもうずっと付いてきている。      監察の説明では、この男は京に潜伏する不逞浪士達の主要な連絡役で、旅籠から旅籠へと日に数度も繋いでまわっているという。  要は、この連絡役に、おまえのやっている事は新選組が把握しているのだと知らしめ、不逞浪士間の連絡を制限させることが差し当たっての狙いなのだ。    そして、男が恐れをなして連絡行為を控えれば控えるほど、只それだけで、  新選組つまり守護職の京での活動目的である、幕府の意向に反する政治的破壊的活動の阻止、に直結する。    かつ、この男ひとり捕まえるよりも、恐怖の中を泳がせておき、  いずれ遅かれ早かれ、この男が助けを求めて駆け込む先の不逞浪士達を“いぶり出す” ことができるならば、そのほうがよほど使い道もあるのだと。
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