斎藤一の尾行

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   牢にも限りがある。  徹底巡察を要する時期ではない今、不逞の輩といえど、それなりの嫌疑や詮議にかけられるだけの証拠も実害も無いうちにやたらめったら取っ捕まえることはしない。まして安易に拷問することならば更に無い。  もっとも、新選組を鬼の集団と信じてやまない彼らは、そうは思っていないようだが。    組が拷問で問いただす時は、濃厚な嫌疑が存在しながらも証拠が薄い場合、  または政治的活動なり破壊的活動なりの現行犯であったり、不逞浪士のほうから組の人間を襲ってきたような場合である。      その程度に、組にも体制側としての制限があるぐらいだから、束の間とはいえど平常時たる今、見つけ次第とにかく捕縛する対象など限られている。  すでに反幕府的活動の証拠が挙がっている、不逞浪士の元締め達だ。    そうでない、いっていればその他大勢の不逞浪士がただそこに居るだけで捕まえたりはしない。  日々の旅籠への巡回の目的も、元締め達の捜索追跡と同時に、その他大勢への牽制であるといっても過言ではない。    彼ら名もなき不逞浪士達の個々の密会においては、常、監察が見張り、確かな反幕活動を確認した段階でやっと踏み込むのである。そうでなければ、むしろ泳がせて元締め達へ辿る手段を残しておくほうがいい。    今回も、男の今後の行動によっては、そうして何かしら“いぶり出す” ことが期待できるということだ。  
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