土方歳三の機転

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土方歳三の機転

 その日は。  夕餉が始まっても、近藤も土方も現れなかった。    (新見も、いない)    永倉は今一度、広間を見渡した。      今朝近藤が、朝番に出ていた藤堂と原田を除いた、永倉や斎藤ら江戸の頃からの仲間を集め、  今日にでも現局長の新見を糾弾すると、伝えてきたことを思い出す。      現時点で局長は三人いる。  筆頭局長の芹沢と。芹沢の腹心である新見、  そして近藤の三人。      芹沢が何も知らずに、周囲に侍らせた隊士達と陽気に話しているのを目に。永倉の耳奥では、今朝の近藤の話が残響している。      (つまりおそらく今、近藤さんたちは)    「新八さん、」  横に座っていた島田に声をかけられ、永倉は振り向いた。    「近藤さんたちは、今日やはり・・」  「ああ、そうだろうな」  永倉は、慎重に頷いてみせた。      いま、近藤、土方どころか、沖田、山南、井上までもおらず。近藤一派の中でも最も中核を成すこの五人が、揃いも揃って居ないというのは、さすがに妙に不穏なものを感じさせるのか、  見れば永倉たちの向かいの席で、朝いなかった藤堂もその隣の原田も落ち着かなそうにしている。  (あいつらに伝えておいてやればよかったか)       
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