土方歳三の機転

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 おもわず永倉が胸内に呟いた時。    「あ・・」  藤堂が声をあげた。    (来た)    不在だった五人が、自然に談笑しながら姿を現した。    「なんじゃ、遅かったのう」  芹沢が持参の酒で少し蒸気した顔を上げて、近藤達を出迎え。    ほっとしたように藤堂達が彼らを見上げているのを目の端に、永倉は、彼らと一緒に居たであろう新見が続いては来ないことを確認する。      「芹沢局長、」    近藤が座しながら芹沢を向いた。  「後でお話が。お時間頂戴できますか」    「うん?」  芹沢が盃を膳に置いた。    「ここでよかろう」      近藤の声はごく自然に小さく発せられたものだったが、芹沢は地声なのか大きな声で返したものだから、周囲は何事だと一斉に視線を寄こして。  近藤は一瞬、困ったような表情を浮かべたが、すぐに芹沢へと膝を向け直した。    「それでは。新見局長のことで」      近藤を囲うように山南と沖田が左右に、その後ろには井上が座し。  土方がまだ立ったままで、入口に背を凭せかけて腕を組んだ。      「・・新見が何だ」    新見の姿がみえないことに気が付いた様子で、芹沢が近藤を睨む。    明らかに、灯った不穏な空気に、場は静まりかえった。       
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