土方歳三の機転

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 「さては主ら、謀ったな!?新見はそんな殊勝な男でないわ!追放なんぞにも応じるわけがない、今頃どこぞに捕らえられているのではないのか!?」  「そのような事、」  近藤が、諫めるように芹沢を見据えた。  「有り得ませぬ」    「芹沢局長」  つと、今まで黙っていた土方が、  戸に立ったままに、口を開いた。    「貴方の仰りようは、いかにも我々が会津公と示し合わせ、新見元局長を陥れたというふうに聞こえる。お言葉を慎まれたほうがよろしい」    「・・・貴様」  「そもそも、新見元局長は、腹を召されてもおかしくなかったのですぞ」  土方が、その秀麗な眉ひとつ動かさず。  言葉に詰まった芹沢を冷えびえと見下ろした。    「それでも我々を中傷なさるおつもりなら、芹沢局長といえど、捨ておけませんな」  ───刹那。  ガタンッと膳が乱暴に退かされる音とともに、  芹沢の周りで殺気立っていた芹沢一派の隊士達が、中腰の態勢で大刀を引き寄せ、    それを受けて近藤の左右で、山南と沖田が、  そして永倉も、  藤堂らも。片膝を立て同じく大刀を引き寄せ。    場は一触即発となった。      「芹沢局長、」    悠然と懐手でありながら、隙の全く無い近藤の。低く制するその声音が、殺気の満ちた空間に響いた。       
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