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山南敬助の選んだ散り方
山南の様子がおかしい。
土方が最初にそれに気づいたのは、いつだったか。今にしておもえば、もっと、遥か前だったのかもしれない。
冬の厳しさ残る折。
天狗党処刑の報が、組に届いた。
二度、三度と。
山南の苦悶は回を追うごとに、もはや如実に表れ。
「山南さん、」
三度目の報の夜、ついに土方は、山南に切り出した。
「何か悩んでる事があるんじゃねえか」
部屋に居る近藤、沖田も、土方の見つめる先の山南を心配そうに見やった。
「何も、悩んでなんていないよ」
山南の無理に明るい声が返り。
「ただ少し・・疲れたかな・・」
命を奪い合う、この世界に
小さく続いた山南のその言葉は。土方たちの心奥に、静かに墜ちた。
(命を奪い合う)
そうだ。
それが、天狗党の処刑の遥か前より。山南の心に、鬱積してきた哀痛だったのだと。
芹沢の暗殺に始まり。手段が違えど国を憂う志は同じはずの浪士達と、時に血で血を洗う軋轢を、
前線で幾たびも重ねてきた新選組に、その身を置いた侭に。
土方は、咄嗟の言葉を紡げずに。
山南を見つめた。
山南は幕府に絶望したのだ。
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