その声が、いつも

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 つくづく世の中は馬鹿ばっかりだと思う。あまりにも無能なやつが多い。同じ失敗を何度でも繰り返し、他人の過ちから何ひとつ学習しない。そういうやつらの世話をして回るのにはほとほと疲れ果てている。  今日も部下のヘマをフォローして、上司の確認ミスを指摘して、新人に怒鳴って派遣社員を叱っているうちに一日が終わった。結局自分の仕事が何もできなかった。  俺が自分の仕事にかかれるのは、だいたい夜になってからだ。いつものことだ…仕方ない、また終電まで頑張るとしよう。そう思って伸びをすると、背中がゴキゴキと面白いくらいに音を立てた。  あー…。  まずいな。  だいたい、こうやって背中が鳴るようになると、頭も心もこわばってくるタイミングだ。どっちが先かは良くわからないが、経験上俺はそれを知っている。こうなると仕事の能率は落ち、いつもよりなお相手にきつく当たってしまう。馬鹿を相手にすると苛立ちはするが、別に八つ当たりしたいわけじゃないから、叱責以上のことはしたくない。  そろそろ、アレが必要になる頃だ。  俺はほとんど人気のなくなったフロアを出ると、非常階段に続くドアを開けた。シャツ一枚の上半身に冬のビル風が容赦なく吹き付けて、ただでさえ血行が悪くなっている身体をさらに固まらせる。  冷たい指でスマホを出して、ホーム画面のアイコンをひとつタップすれば、すぐコールが始まる。 『もしもし? どしたの?』  その一言だけで、身体と心に、あたたかい血が巡り始める。あらゆる強張りがとけていく。  これでまたしばらくは、やっていけるだろう。
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