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家族までも見えなくなってからの数日間、何度も何度も何度も、彼女に「まだ見える」と嘘をつこうと考えた。そうすればもっともっと彼女と一緒に、彼女と僕しかいない二人っきりの世界を楽しむことができるはずだった。
けれど、彼女に嘘はつきたくなかった。僕の嘘によって、僕のわがままによって縛られてほしくなかった。三年間の彼女の無償の好意には誠意をもって応えるべきだと思った。
A「行きましょう」
彼女が目に涙を溜めた顔で笑いかけ、手を差し伸べる。
白く華奢な手を握ると体がフワリと浮かんだ。慌てて彼女を見上げると、マフラーが朝日に輝く翼に変わっていた。
B「やっぱり天使だったんじゃん」
いたずらっぽく僕はいった。
A「だったらよかったんだけどね、私はあなたと同じ若くして死んだ子供の幽霊。忙しい天使の代わりにこうして私と似た子供たちの成仏を手助けしてるの」
やっといえた、そんな雰囲気を彼女から感じた。多分今まではいえなかったのだ。
B「ねえ、また……僕たち会えるのかな?」
明るい声音を意識していった。
A「ええ、きっと……だけど……今度はあなたの番ね。いつか……もし私たちみたいに困ってる子を見かけたら助けてあげてほしい。それは生まれ変わった私かもしれない」
足のない二人の幽霊は朝日を浴びて空へ消えていく。
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