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「身体、痛いとこない?」
肘を付き紫音の髪を撫でながら斎藤が尋ねる。
「身体中がギシギシします」
「ごめん」
眉を下げ申し訳なさそうに謝った斎藤だが、すぐに堪えきれない笑みを浮かべる。
「身体が不調な間は思い出してもらえる」
紫音の髪を撫でる手はいつまでも優しく労るように動き続ける。
「紫音、また来てもいい?」
髪を撫でる手はそのままに片方の手で紫音を強く抱き寄せ斎藤が問う。
その強さはまるで否と答えるのを許さないとでも言いたげで、紫音の胸がまた痛んだ。
「駄目ですと答えたら来ませんか?」
「うん、いや、うーん…我慢はするけど、来てしまうかな」
紫音を抱きしめたままうんうんと唸る斎藤に堪らず噴き出す。
自分の中だけでも、もう認めてしまおう。
この人が好きで、諦められない、と。
あの場所で名前を呼んで欲しいとずっと願って待っていたことを。
昨夜抱かれた自分の心も身体もどれほど喜んで泣いたかを。
「上手に名前を呼べたら導いて差し上げます」
作り笑いではない、柔らかい自然な笑みを浮かべた紫音は驚いた斎藤の唇に一瞬だけの口づけを落とした。
迷うニ夜 終幕
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