強請る三夜

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いつものようにあの細い道を通り呼び鈴を鳴らし、やがて現れた紫音を大事そうに抱き締めた斎藤の胸を耳を赤く染めた紫音が弱々しく押し返した。 「嫌だった?」 「………食パンが潰れます」 斎藤は思わず顔を手で覆った。 可愛いいが過ぎる… これまで付き合った女性にこんなに可愛いと思ったことはない。 同性なのに可愛いと愛しいといつも思う。 柄にもなくそれを何度も口に出して伝え、好きだと囁く。 それでもまだ半分ほども伝えられてないことがもどかしい。 頑なに別々ですと言い続ける紫音に白旗を上げ一人で風呂に入った斎藤が髪を拭きながら出てくると、キッチンカウンターに座った紫音がぶ厚い手帳を開いていた。 中を覗いてしまわない距離を保ったまま斎藤が口を開いた。 「それは何か聞いてもいいかな」 斎藤の問いに紫音は泣き出しそうに顔を歪めて笑ってみせた。 「これは……私の戸籍です」
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