永久に十夜

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永久に十夜

手掛かりはほとんどなかった。 紫音はいつも宏樹の話しを口元に微かな笑みを浮かべ頷き聞くだけで、自分のことは話さなかった。 施設という施設を片っ端から当たった。 どんな些細な情報でもいい、紫音に繋がる何かがあれば。 議員秘書の仕事の傍ら、何かに取り憑かれたかのようにあちこち奔走する宏樹を父の宏巳は静かに見ていた。 六年後、祖父が亡くなった。 告別式も通夜も終わり、49日が過ぎた夜、宏樹は両親に告げる。 「思う人がいる。どうやっても忘れられない。その人と添い遂げたい、だから議員にはならない」 母は狂乱した。 土下座して頭を下げる息子を罵倒し、説得し、宥め、褒め、ありとあらゆる言葉で考え直すよう諭した。だが、宏樹が首を縦に振ることはなかった。 もう六年。 会えもせず、声も聞けず。 それなのに愛しい人は少しも薄れない。 自分の名を呼ぶあの声も、自分の下で妖艶にまた可憐にも喘ぐ姿も。 最後の日、耳元にくれた口づけ。 その後の笑顔。 それがずっと残っている。 会いたくて堪らない。 「期待に応えられなくてごめん、母さん」 咽び泣く母の肩を抱いた父が行けと顎をしゃくった。
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