泥酔

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こんばんはあ。 こんばんはあ。 瞼がグラと上がった。 日付は超えただろうか、超えていないだろうか、 部屋に差す灯かりは、窓の擦り硝子に分散された街頭の橙と、テレビの砂嵐。 その砂嵐を僅かに反射する酒瓶。 僕はテーブルに臥せていた顔をぶるぶると細かく震わしながら、 ゆっくり、ゆっくり玄関の方へ回す。 泥酔した体はスムーズに動かない。 こんばんはあ。 こんばんはあ。 鍵をかけ忘れていたのだろうか、ノブが回り、 戸がキイとこちら側へ開かれる。 暗くて顔はよく見えないが、知らない老夫婦が立っている。 こんばんはあ。 こんばんはあ。 玄関と居間の間には境がない。 戸を閉め、靴を脱ごうと屈む老婆が見える。 僕の体はピクリとも動かない。 誰だ?誰だよ? 声が出ない。 勝手に入って来るなよ? 手が出ない。 吐き気と眠気で頭が上がらない。 二人は一定の平坦な声を出しながら、 何年も敷きっ放しでぺたんこになった安いラグを踏みしめ、近付いて来る。 こんばんはあ。 こんばんはあ。 その濁った爪の埋まった、皺くちゃの胡桃のような足を、 僕は、テーブルの上から見下ろすことしか出来なかった。 こんばんはあ。 こんばんはあ。 こんばんはあ。 こんばんはあ。 こんばんはあ。 …… 僕の瞼は抗うように痙攣しながら、 再び、 ゆっくり、ゆっくりと降りていった……。
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