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「わた…わたし、」
―――耳の奥。バラバラの音の中でただひとつ、くっついた。
「『私』?」
音のほうを見ると、若い男性が居た。
「ああ、きみが通訳のひとか」
誰もが忙しく行き来する中で、彼の目だけが、わたしを見ていた。
ビジネス用の顔を貼りつけて手を差しだすと、彼はおずおずとそれを受けた。
「三田村です。どうぞ、よろしく」
「孫、と、もうします」
外そうとした手が、動かなかった。
どうしたかと思って顔を上げると、孫は浅く息を吸ったり吐いたりしていた。
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