2 クッキー

4/7
98人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
 ティルと目が合った。いや、ティルが見ているのはぼくではなく、ぼくが食べているクッキーだった。  ぼくは誘うように、咥えたままのクッキーの尻尾をユラユラと振って、ティルへと見せつけた。 案の定、ティルは食い付いてきた。一口で残りのほとんどを食べられてしまい、勢い余って、ティルの前歯とぼくのとがぶつかって・・・キスをした。  クッキーを食べ尽くしたはずなのに、ティルの口は唇は、ぼくから退かなかった。 しばらくしてようやくティルが退いた唇で、ぼくは言った。 「もっと食べるかい?」 ぼくは猫の顔の右半分を咥えて、ティルへと示す。これも又、一口で食べられた。  そうして残りのクッキー全てを同じようにして、ぼくはティルと一緒に食べた。 最後の一枚の、肉球の形のを食べ終える頃にはクッキーを食べているのか、それともティルとキスをしているのか、分からなくなっていた。  受付の男が言っていた「ご一緒にどうぞ」とは、こういうことではなかったと思う。 ・・・多分。  クッキーにかキスにかは分からないが、物足りなさそうに自分の口の周りを舐めているティルの体へと、ぼくは視線を落とした。 なだらかな胸に、クッキーの欠けらが張り付いている。  胸だけではなかった。よくよく見ると腹や太もも、そして、もう既に勃ち上がっている若いオスにもクッキーの粉が降り掛かっていた。  ぼくが思ったのは汚いな。ではなく、舐めたらティルはどんな顔をするかな?だった。しなかったけれども。  その代わりに、ぼくはベッドから立ち上がり、ティルの腕を取った。 「おいで。一緒にシャワーを浴びよう。洗ってあげるよ」  ティルは今一つ分かっていないように、ぼくを見上げた。クッキーの粉に塗れたままで。  猫は水が嫌いなコも多い。・・・ティルはどうだろうか? ぼくも恐るおそるだったが、ティルの方がずっと怖かったのだろう。文字通り「借りてきた猫」のように、お湯を張っていないバスタブの中で脚を伸ばしたまま、全く動かない。  ぼくはティルの脚から腹、そして胸へと徐じょにシャワーヘッドを動かした。 首から上はパニックになると困るので、止めておいた。 「怖くないよ。気持ちいいだろう?」  肩から背中にかけても、まんべんなくお湯を浴びせる。温まってきたのか、ティルの肌が薄っすらと赤みを帯びてきた。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!