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3 キャットニップ
さすがに来店も三回目になると、けして、この手の店に詳しくはないぼくにでも分かってきた。
この『ネコが見る夢』は猫カフェなどではなく、しかも、ただのゲイ向けの風俗店でもない。
過去、二回だけだったが、他の客と顔を合わせたこともなかったし、受付の男以外の従業員を見掛けたこともなかった。
一体、そんな店がどこに在るというのだろうか?・・・しかし、確かにここに在った。
今夜もぼくは、外から見ると何の変哲もない、ありふれたオフィスビルのような『ネコが見る夢』を訪れて、受付の男にティルを指名した。
もう、ガラスの向こう側に居る他の猫たちを見るまでもなかった。
「承りました。お部屋にてお待ちください。それと、どうぞこちらをお持ちください。オモチャです」
「えっ!?」
紙袋は前のクッキーが入っていたのよりも、一回りほど大きかった。
ぼくは男がカウンターの上へ置いた紙袋を、それこそ穴が開くほどしげしげと見つめたが当然、中身が透けて見えるわけではなかった。
「ティルはまだ仔猫ですので、気が向きましたら、こちらで遊んでやってください」
紙袋を開けて見ると・・・中には、先に羽根や尻尾が付いた棒、いわゆる猫じゃらしやネズミのぬいぐるみなどが入っていた。
「あぁ、猫のオモチャか・・・」
ぼくは気が抜けて、思わずつぶやいた。
いくらそういう店であっても、受付では渡さないだろう!?そんなモノを。
男には、ぼくの心密かな自分へのツッコミなどお見通しだっただろうが、表情にも態度にも一切出さなかった。
男は微笑んで、続けた。
「特に、このネズミのぬいぐるみは気に入ると思います」
「もしかして・・・あなたの手作りだとか?」
ぼくとしては半ば下手な冗談として、もう半ばは本気で言ったのだが、笑って否定された。
「いえ、違います。ですが、手作りです。乾燥させたキャットニップが詰められております」
「キャットニップ?」
「はい。その名の通り、ネコを捕まえるハーブです。日本ではチクマハッカ、又はイヌハッカと呼ばれています」
男の説明は滑らかだった。
キャットニップなのにイヌハッカだなんて、ぼくの下手な冗談のようだ。と思いながら、ネズミのぬいぐるみを手に取ってみる。
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