3 キャットニップ

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 ハッカと言うだけあって、スッとした匂いが鼻を突いた。 ちょうど手のひら大のそれは、色いろな布のパッチワークで作られていた。 大きな円い耳と細いひも状の尻尾とも、ちゃんと付けられていた。黒い目はボタンではなく、ししゅうだった。 「是非ともお試しください」  男はそう、締めくくった。  部屋でティルと二人?きりになるや否や、ぼくは例の紙袋の中身をティルの目の前、直に座るフローリングの床の上へとばら撒いた。 「ティルはどれで遊びたい?」  ティルは答えない。すっかり、目の前のオモチャの数かずに目を奪われているかのようだった。 あの、ネズミのぬいぐるみにもクンクンと鼻を寄せる。小突いたり、叩いたり、握ったりしていた。  狩りをしていた頃の、本能の名残りだと聞いたことがあったが、イマドキの猫がネズミを獲るとは思えない。  今、目の前に居るティルを、普通の猫と言ってもいいのかは分からないが、狩りをしているというよりはじゃれついて、遊んでいるかのようだった。  そう思い、眺めていると・・・ティルの様子に変化が現れた。 床の上に寝転がり、体を擦り付けるようにして何度もなんども、寝返りを打つ。青み掛かった黒い瞳は潤み、心なしか顔が赤かった。  呼吸が短く、荒い。悩ましいほどに・・・そこまで思ってぼくは、ティルの股間を見た。 そこではティルのオスがそそり立ち、頂から先走りがにじみ出ている。  欲情だか発情だか知らないが、ぼくはまだ、何もしていなかった。指一本、ティルへと触れていない。 不意に思い当たった。この、ネズミのぬいぐるみの、正しくは中身のキャットニップのせいに間違いなかった。  おそらくはマタタビと同じなのだろう。だから「猫を捕らえる」とは、なるほどな名前だった。  文字通り、キャットニップの(とりこ)になったティルは、床の上でのたうち回っている。体が火照って仕方がないのだろう。 どうすればいいのか全く分からないらしく、ただただ小さく鼻を鳴らして、体をくねらせている。  「ティル、これでは遊ばないのかい?」 それどころではないティルへと、ぼくは敢えて先に鳥の羽根が付いた猫じゃらしを手に取り、振って見せた。  結果、無視されてしまったぼくは、あきらめなかった。羽根で、ティルの左の脇腹を撫でる。 高く鋭い声が、ティルの口を突いて出た。先走りに濡れるオスの印が揺れる。  
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