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ぼくの手に、ティルが自分のを重ねてきた。
「・・・何で、謝るの?マヒロ」
「!?」
ぼくは、自分の耳が信じられなかった。ティルが、猫であるはずのティルが、しゃべっていた。
そして、ぼくの名前を呼んでいた。
驚き過ぎたぼくは思わず、どうでもいいことを口走っていた。
「どうして、ぼくの名前を・・・?」
受付の男がティルに教えたのだろうか?いや、受付の男に名乗ったのは名字だけで、下の、名前までは言っていないはずだった。
ぼくがそんなことをつらつらと考えていると、ティルは笑った。
瞳の中の青がより鮮やかになったように見えるのは、ぼくの気のせいだろうか?
ティルは何でもない、ごく当たり前のことのように言った。
「マヒロのことだったら、分かるよ。ねぇ、それよりもぼく、まだなんだけど。して」
「あ・・・」
ティルがぼくに続きを促す。あからさまな言い方だったが、全くいやらしいとは思わなかった。
ティルはあくまでも無邪気に、快感をねだってくる。前と何も変わらず、同じように・・・
ぼくは手を動かし始めた。ティルが実に気持ちよさそうに、腰を体を揺らし始める。
「・・・イっちゃいそう」
うっとりとしたティルの声に、ぼくはまだティルの中にあるオスが再び、兆すのを感じた。ティルはそれに気が付いたように、ぼくの目を覗き込んでくる。
開けたままだった口元を、ペロリと舐められた。
ティルが達してから、ぼくはティルから離れた。
ぼくのオスを包んでいた白く薄いゴムは、ぼくの精液と再び膨れ上がったぼく自身とに満たされ、今にも破れそうになっていた。
ぼくは着けた時と同じく、慌ててゴムを外し、ティッシュで包んだ。
精液に塗れたティルのオスも、拭う。
「ありがと。でも、シャワー浴びるからいいよ。マヒロも一緒に浴びようよ。そして、もう一回しよう」
「ティル・・・」
ひらりと軽やかにベッドから下り、バスルームへと向かうティルの後ろ姿にはもう、あの、しなやかな長い尻尾はない。
ティルが立つ床の上には、その尻尾だったものが、まるで蛇の抜け殻のように転がっている。
・・・ティルもまた、脱皮をしたのだろうか?そんなことをぼんやりと考えているぼくへと、ティルは振り返った。
「早く。マヒロ」
ぼくを待たないでバスルームへと入って行ったティルを追う。中ではティルが実に気持ちよさそうに、頭からシャワーを浴びていた。
歩み寄り、隣に並んだぼくを見上げ、シャワーを掛けてきながらティルが言った。
「僕を大人にしてくれて・・・僕の夢を叶えてくれてありがとう。好きだよ。マヒロ。大好き」
「・・・・・・」
初めて聞くティルの声は、ぼくの耳にはとても心地よく響いた。
語られる言葉も甘く優しくて、まるで夢の中でのことのようだった。その上さらに、ティルは不意に思い付いたのか、
「そうだ!今度は僕が、マヒロの夢を叶えてあげる。ねぇねぇ、マヒロの夢って何?」
とまで、言ってきてくれる。
それこそが、ぼくにとってはまさに夢そのものだった。
ぼくは答えた。
「ぼくの夢か・・・ぼくの夢はティル、君の飼い主になることだ」
言った後で、ぼくはティルにどう思われるかを考えた。ティルは笑うだろうか?それとも・・・
ティルは円い大きな目を見開き、さらにまんまるにしてぼくをじっと見た。
そして、シャワーヘッドを放り出して、ぼくへと抱き付いてきた!
「すごい!すごいよ!マヒロ。それもぼくも夢だよ!ねぇ、どうして?どうして知ってるの?」
大人になってしゃべられるようになっても、前と同じように素直に無邪気に、擦り寄ってくるティルの濡れた体を、ぼくは抱きしめ返した。
「さぁ・・・?どうしてかな?」
その、尖った耳を甘がみしながら、ぼくは本気で思う。この世界の全てが、ティルが見る夢で出来ていればいいのに、と。
そして、それらの全てをぼくは叶えてあげたい。
まずは、ティルの飼い主になろう。受付の男へと話をして、ティルをもらい受けよう。
ふと、思った。あの受付の男もまた、自分の夢を叶えたのだろうか・・・?
黙るぼくに、ティルは焦れて急かしてくる。
「えー?教えてよ~もう!マヒロのイジワル!」
もっともっとティルの夢を聞いていたかったが、拗ねてとんがらせた口元があまりにも可愛らしかったので、ぼくはつい、キスをして塞いでしまった。
終
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