1 ミルク

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 ゲイを対象にした、風俗店なのだろうか・・・? ぼくは上手く回らない頭でそう考えてみたが、それにしては手が込み過ぎている。  その時、こちらは見えないはずの向こう側の猫の一匹と、目が合った。 「ロシアンブルーだ・・・」 思わずぼくはつぶやいていた。まだ若いのか、目が円くて大きい。 青み掛かった黒い二つの目が、真っ直ぐとぼくを見ていた。  男がすかさず教えてくれる。 「あぁ、ティルですね。入ったばかりでまだ慣れていませんが、素直で良い子ですよ。彼にしますか?」  ぼくはうなずいた。彼の、ティルの目を見つめたままで。  男がガラスの向こう側から、ティルを伴って戻って来た。 ティルはちゃんと二本足で立っていて、その背の高さは男よりも頭一個分、低かった。 すんなりと伸びた首に、濃い青色の細い首輪をしていた。  部屋へと入るなり、男が言った。 「二つだけ、よろしいでしょうか?尻尾には触れないでください。先程申し上げた通り、まだ馴らし中ですので。爪を立てるといけないので、手枷を嵌めておきますね」 「え・・・」  男はティルの両腕を後ろへと持っていき、手首でまとめた。 その間、ティルはというと男をあの、まんまるな目で見上げているだけで、特に嫌がっている素振りを見せなかった。 「柔らかい素材ですので、大丈夫ですよ。それと、ティルはミルクが好きなので、もしよろしかったら飲ませてやってください。それでは、私は失礼致します。どうぞごゆっくり・・・」  男は実に恭しい一礼を残し、部屋を出て行った。 ティルと二人きり?になったぼくは、改めて部屋を見渡した。 広さはホテルのツインルームくらいだったが、家具がキングサイズはあろうかという大きなベッドしかない。奥にある扉は、バスルームへと続いているのだろうか?  まずはシャワーでも浴びて・・・とそこまで思った時に、バフン!という音がした。 見ると、ティルがベッドに飛び込んでいた。白いシーツに体を擦り付けるようにして、文字通りゴロゴロしている。 あのまんまるい、青み掛かった目とぼくのが合った。ねぇ、コッチへ来てよ。と言われているような気がした。  ぼくはベッドへと近付き、乗り上げた。ついた膝がグラグラする。ウォーターベッドだった。ティルが体を揺すったので、さらにベッドは波打った。
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