1 ミルク

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 行きつけのバーで偶に会うシロタと、猫の話になった。 以前、ぼくが好きだと言ったのを、律義にも憶えていたかららしい。 「今は飼ってないの?ペット、ダメな所なの?」 シロタは、いかにも人好きがしそうな垂れ気味の目で、ぼくの顔を覗き込んでくる。  友人として付き合うには、ちょうどいい男だった。向こうもぼくのことを、そう見做したのだろう。 こういう所、つまり男同士の出会いの場、いわゆるハッテン場だからといって、全てがすべてカップルになるわけではない。  おそらくは同年代だろうシロタとは、同じ秘密を持つ、言わば悪友のような関係だった。 「そんなことはないけど・・・いざ飼うとなると、色いろと大変だろ?面倒なことも多いしさ」 「恋愛みたいに、か?」  シロタはぼくの言葉を鼻で嗤い、太い指先で、お通しのスタッフドオリーブを器用に爪楊枝で刺した。 図星だったのでぼくは黙って、とっくに温くなってしまったハイボールをすすった。  改めて店内を見回してみる。客はぼくたち二人しかおらず、カウンター内には店主(マスター)のササさんが居た。 大抵は居る、見習いと思しき二十歳そこそこの美青年の姿は、今夜はなかった。 大きな目としなやかな身のこなしとが、どことなく猫を思わせて・・・ぼくの好みだった。  そういう店ではないとは分かっていても、心密かにガッカリした。 だからシロタが、 「でも、好きなんだろ?」 と言ってきたので、ぼくはビックリした。 とっさに返せないぼくに、シロタはたたみかける。 「猫だよ。猫。遊びたくなる時とか、ないの?」 「そりゃあ、あるよ」  恋愛と一緒だ。人肌が恋しくなるように、猫のあの、柔らかな毛並みが恋しくなる時もある。 思い出してみると、ぼくが今まで付き合ってきたそう多くはない恋人たちも、どこか猫に似ていたような気がした。  「ふーん。マスター、何か書くものない?」 シロタはカウンター内で、ウイスキーの瓶を整理していたササさんに声を掛けた。 ササさんは黙って、手にしていたメモ帳とボールペンとをシロタに差し出した。どうやらリストを作っていたらしい。  シロタはそれに何やら書き込み、ぼくへと寄越した。 「おれのオススメの所。普通の猫カフェとは、わけが違うぜ。紹介だと初めてはタダだから、一度行ってみたら?ここから近いし。マスター、ありがと。あと、同じのお代わりね」
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