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ティルはまだ、眠っていた。今回もやはり、体を丸めるようにして。
ぼくはティルを起こさないように、そっとベッドを下りた。
この部屋には時計が見当たらなかった。脱ぎっぱなしの服の上着から携帯を取り出して、時刻を見た。大して時間は経っていない。
しかし、ぼくは帰り支度を始めた。このままティルと寝ていたら、きりがないように思えた。それが出来たら、どれほどいいだろう。とも考えながらも。
後は部屋を出るだけになってぼくは、まだ丸まって眠るティルの右頬へとキスをした。
「おやすみ。ティル。またね」
ぼくは眠っているティルを残し、部屋を出た。
受付に居た男へとティルが部屋で寝ていることを告げると、男は心得ているとばかりに、実にゆったりと応じた。
「お心遣いをありがとうございます。まだ仔猫なものですから。後で起こしておきます」
「よく眠ってたものだから・・・あ、そうだ。クッキー、ごちそうさま。ぼくにも美味しかったよ」
ぼくが言う礼に、男は控えめに微笑んだ。
「カンノ様のお口にも合ったのでしたら、幸いです。アレは私の手作りですので」
「えっ!?」
「冗談でございます。失礼致しました」
「・・・・・・」
ぼくはとっさに上手い返しも出来ずに、あいまいに笑いながら会計を済ませた。
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