4 生え替わった尻尾

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4 生え替わった尻尾

 ティルが文字通りキャットニップに捕まって、メロメロになってしまった夜から三か月以上が経ってやっと、ぼくは『ネコが見る夢』を訪れることが出来た。  受付の男は前と何も変わらずに、にこやかにぼくを迎える。 「いらっしゃいませ。カンノ様」 「こんばんは。ティルは居るかな?」  男の返事は間髪なかった。 「おりません」 「えっ?」 「定期検査からまだ、戻って来ておりません。思っていたよりも時間が掛かっているようでして」  男はもはや、笑うのを隠そうとはしなかった。まるで猫のようにしきりにグルグルと喉を鳴らした後で、ぼくへと謝った。 「失礼を致しました。お詫びというほどのではありませんが、ティルをお待ち頂けるのでしたらその間、お茶でもいかがでしょうか?」  男は言葉ではそう述べたが、ぼくがそのまま帰るか、又は代わりに、違う猫を指名するとは露ほど思っていないようだった。  事実、その通りだった。 「・・・ありがとう。そうさせてもらうよ」 「では、こちらへとどうぞ」  男はぼくを、受付内の扉の中へと(いざな)った。  扉の向こう側は、応接室だった。 男は右耳へと手を当て、 「お茶を二つ、持って来てくれ」 と言った。髪の毛で隠れていて見えないのか、インカムでも着けているのかも知れなかった。 「どうぞ、おかけください」  ぼくは黒い皮張りのソファーに腰を下ろした。 柔らか過ぎず固過ぎず、一度座ったら最後、立ち上がるのが面倒になってしまいそうな、そんなソファーだった。 良い椅子に座ると、自分が偉くなったような気分になるのは、ぼくだけだろうか?  ノックの音がした。 「失礼致します」 という声に続いて、お盆を手にした男が応接室へと入って来た。 年齢は受付の男と同じくらいだろうか?やはり同じく、三つ揃いを隙なく着こなしている。  男は、ぼくと受付の男との前にそれぞれ紅茶茶碗を置いた。 「ありがとう。ティルが戻ったら、知らせてくれ」 「分かりました。失礼致します」  男はぼくへと恭しく頭を下げ、応接室を出て行った。無駄な肉も脂肪も、動きもないその姿はまるで猫そのものだった。  ぼくの真正面に座った受付の男は、紅茶茶碗の中身を静かにスプーンでかき混ぜている。スプーンを置き、紅茶を飲むかと思ったら、不意に視線を上げぼくを見た。 「時に、もしも間違っていたら、平にご容赦願いたいのですが」 「・・・何ですか?」
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