5 ティルが見る夢、ぼくが見る夢

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5 ティルが見る夢、ぼくが見る夢

 再び『住のゑ』で、シロタに会えたのは年が明けて間もない頃だった。 ぼくがシロタの紹介で、初めて『ネコが見る夢』を訪れてから一年近くが経っていた。  「よぉ、久しぶりだな。恋人でも出来たのか?」 その間、ぼくは度たび、このバーへと顔を出していたが、シロタには会えなかった。どうやら、すれ違っていたらしい。 「いや・・・そうだ、この間といっても大分前だけど、ありがとう。とても楽しかったよ」 「え?あぁ、アレか。『ネコが見る夢』のことか?」  ぼくはうなずいた。シロタは何故だか、じいっとぼくの顔を見て言った。 「へぇ~気に入ったんだ。だったらよかった。で、どうだい?可愛いのはいたのか?」 「あぁ」  即答するぼくをしげしげと見つめたシロタは、呆れたようにつぶやいた。 「何だよ。のろけてるのか?別に、羨ましくなんかないぞ。本当だ」  シロタは『ネコが見る夢』でも、実生活でも、シロタにとっては可愛い、色黒で筋肉質の年下のを見付けていないらしい。  ぼくは苦く、あいまいに笑った。 「お礼に一杯、おごらせてくれ。たくさんの方の、イッパイじゃないからな」  ぼくの念押しに、シロタはわざとらしく舌打ちをしつつも、ササさんにジャパニーズウイスキーの銘品の『竹鶴』のロックを注文した。 ・・・なかなかのお値段だった。  甘露を思わす、トロリとした色合いとまろやかな味わいとの液体で喉を湿らせたシロタが、尋ねてきた。 別に羨ましくはないが、話は聞きたいらしい。 「で、どんなんだよ?おまえのカワイ子ちゃんは」 「まだまだ仔猫だよ。この頃やっと、大人びてきた。でも、もうすぐ大人になるかも知れない」 「そうなると早いよなぁ・・・光源氏みたいな気持ちか?」  シロタはそう、からかってきたが、ぼくはけして、ティルを育てたなんて思わない。  受付の男が言ったように、早いか遅いかの違いだけだった。 そしておそらくは、ティルが大人になる日は、その尻尾が無くなる日は近いと、ぼくは思う。  ぼくは、シロタへと言った。 「そうだな・・・仔猫の時も無邪気で可愛らしかったけれども、大人になったらそれはそれで・・・やっぱり可愛いと思うよ。多分」  「それはどうも、ごちそうさま」 シロタはロックグラスを目の高さで掲げて、言い放った。  ぼくののろけに対してなのか、又はぼくがおごったウイスキーになのか、それともそれら両方になのか、結局ぼくには分からなかった。
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