土星

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土星

車というものはいつもそう、いやそうあるべきものなのだが、アクセルを踏む、その動作だけでいとも簡単に人間を高速にかつ安全に目的地へと運ぶことができる。しかし往々にして、私達は「車を使って私達は私達を運んでいる」と捉えてしまうことだろう。それもそのはず、足が何を踏んで、それが何を動かして、云々江陵…、…が車輪を動かして、車輪が車を、車が私達を運んで、なんていちいち考えていられるほど、人間の頭はよくできていない。ましてや、今を必死に生きる一小市民である我々に、そんなことに思いを馳せている時間の余裕など微塵もないのである…! 「おい、何読んでんだよ」ただ単調な高速道路の風景に飽きたのか、眠気防止のためなのかはわからないが、運転席に座る木村は、助手席の小山に話しかけた。 「実用書」ぼんやりと小山は答え、ちらりとカバーを見せた。 「胡散臭そうなタイトルだな」 そこに書かれていたのは、「『成功へのプロセス20』あなたも明日から億万長者」といった、一歩間違えれば新興宗教の聖書にも成り得るくらい分厚い本だった。     
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