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「そうなんか…」
基本、車も他にないので、二人が話さないことには無音だった。
「何か、音楽かけるか」木村が、カーナビを操作する。
ピッ、ピッ、という何度かの電子音のあと、聞こえてきたのはクラシックだった。
「なんだっけこれ、音楽の授業でやったぞ」
「シューベルトの『魔王』だよ」
「そう、それ」
確かストーリーがあったはずだ。魔王から逃げる親子、果に死んでしまう幼子。初めて聞いた時、その歌唱が持つ独特なおぞましさと、ピアノ伴奏の圧迫感に背筋が凍ったものである。
「俺が好きな作家の本に、これと同じ名前の本があってな。それの影響で好きになったんだ」
木村とは親交が長い方だったがいつまで経ってもその「好きな作家」の名前が覚えられなかった。
「へえ」なので、適当な生返事で流す。
「この主人公が超能力を使えてだな、…そういえば、小山、あれ、今もできるのか」
「あれ、って…。ああ、最近はやってないからわかんないな。ケンカは嫌いだし」
それは、高校最後の文化祭だった。
公立高校であったためで店もなく、昼食は教室でお弁当で食べることになっていた。
その時はクラス劇の発表も終え、クラスの空気は温かさと達成感に満ちていた。
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