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ぼくは、端っこをそっとかじる。
ハードなパンなのに、口に入れると、生地がほろほろとほどける。胚芽入りのぱさぱさした食感は、はさむ具の水分や油分でカバーできる。ジャムをたっぷりつけてもおいしいに決まっているけれど、マッチする果物が思いつかない。
ぼくは、ケチャップつきのパンから、その甘いにおいをかぎ分けようとした。
パンをたいらげたケイは、パンのかけらを持ったまま動かないぼくに訊く。
「ねえ、何かわかった?」
「わからないな……フィグとゴーダチーズを乗っけたら、もっとおいしいような気がする」
「チーズと組み合わせるなら、フィグよりレーズンの方が好きだな」
「レーズンもいいよね……」
口にしてから、ぼくはケイを凝視した。
「……葡萄!」
「ええ、そうね」
怪訝そうなケイから、ぼくは手元のパンに目を移す。
このパンには、葡萄の酵母が使われている。満足してもらえる風味を出すために、じいちゃんたちの祖国の葡萄を手に入れるべきだ。葡萄の季節が終わってしまった今は、屋台の店主に頼んで、酵母を分けてもらった方がいいかもしれない。
「ヨッヘン! ヨッヘン・ツィマー? ねえ、葡萄がどうかしたの?」
ぼんやり考えながら、ケイがぼくの名前を呼ぶのを聞いた。食べ物にしか興味のないケイが、ぼくの名前を知っているのは、ちょっとした驚きだった。
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