腹ペコ少女とパン屋の息子

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「食事時だけなの。無許可の移民の屋台だから、さっさと来て、さっさと帰っちゃう」  ビンゴだ。ほくは、まさしく、移民のパンを探していた。 「でも、お昼はもう過ぎてるけど?」 「裏通りの工房の人たちは、時間をずらして交代で食事するみたいよ」 「毎日今ごろの時間に来てる?」 「毎日ではないみたい。言ったでしょ、無許可だって」  衛生局の目をかいくぐっているのなら、ゲリラ出店であるのももっともだ。ケイが知っていても、口を割りそうにない。 「ケイ、お願い……パンを一口だけくれないか?」 「いやよ、おうちに帰れば、売るほどパンがあるくせに」  ケイは、ことさら大きく口を開けて、パンにかぶりつく。パン屑がストールにこぼれていても、足元にアヒルが寄ってきても、おかまいなしだ。 「かけらだけでもいい」  木の実を頬張ったリスみたいなケイに、ぼくは頼みこむ。 「常連のじいちゃんが、昔食べた移民のパンを食べたいって言うんだ。うちのパンとは違うって、他のパン屋でも売ってないんだって」 「その人、移民なの?」  ケイは、口にパンが入ったままたずねる。
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